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この世界にはバカがいなければ!
『美しい力・台湾3D』監督・曲全立
「中華圏3D映像の代名詞」とまで言われる曲全立監督ですが、その人生は平凡でした。ですが、生きていく過程は台本のように素晴らしくも波乱万丈でした。
曲監督はまさに仕事でピークを迎えていた35歳の時に、脳にこぶしほどの大きさの脳腫瘍が検出され、恐らく余命があと半年しかないのではと言われました。それでも彼は勇気を振り絞って手術を受けました。今でも目と耳が半分不自由な状態で、顔面には神経麻痺の後遺症が残っています。それでも曲全立監督は、自分の名に恥じない生き方をしています。命は全力投球するもの―それが彼の考えです。
曲監督は、2013年にハリウッドで「3Dクリエイティブ・アーツ賞」を受賞しました。その後は、ここ数年では3D映像分野で数多くの受賞経験があります。曲監督は2008年に3Dに初めて出会ってから、無から有を生み出すこうした技術を駆使してきました。そして3,000日あまり撮影を続け、22万キロを駆け抜け、途絶えようとしている職人300名を、そして台湾の大地で変化に向き合う景観を映像にしてきたのです。
命の授業が終わる鐘の音をじかに耳元で聴く経験をした曲監督は、「人生とは遠くに歩むようでありながら、その実自分の心の中に向かって歩いてくるもの」との思いを抱いています。彼の切なる願いは、3D創作を続け、全世界のより多くの人々に台湾の美しき力を目にしてもらえればということです。彼は経済的な後ろ盾がないなかで、台湾全国で初の移動式3D映画館を作り上げ、2014年に第一歩を踏み出したのです。その日から現在まで1,200日あまりにわたり、13万キロを駆け抜け、僻地にある316の町や村、1200校の小学校を訪れました。そして13万名の学生とお年寄りが、台湾を記録した3Dドキュメンタリー映画を鑑賞したのです。自分の専門性を発揮し、この台湾の大地と子供に思いを還元したい―監督のそんな切なる願いが、こうして形になったのです。
或いは、人生で直面する難関とは多いのなのかもしれません。彼はいつも、「或いは、進む道は険しいのかもしれない。それでも、どんなに険しい道でも、勇敢に進み続けなければ。行動すれば、いいのだから!」と考えています。
Q & A
Q:一日をどう始めますか?
A:私の一日には2パターンあります
台北: 毎日顔を洗って身だしなみを整えます。それから小さな飼い犬を連れて、台湾風の朝ごはん(サツマイモ粥)を買いに行きます。そして金山にあるファームハウスまでドライブをし、自分の開心農場(市民農園)を見てみて、そこで運動を兼ねて雑草取りをします。
他の地方で仕事の時: 毎朝起きたら、その近所を散策し、家に帰ってからゆで卵、バナナ、そしてオーツ麦一杯を用意して、これが私の朝ごはんになります。朝が終わったら玄関前に座って景色を眺めます。
Q:よく行かれる場所は?
A:金山の古い街並みです。ほとんど毎日金山のファームハウスに行って畑を耕したり、いろんなものの手直しをしたりします。そして金山の街の近辺でお饅頭かサツマイモ粥を買って帰り、ファームハウスで食べたりもします。私は実はオタクのように閉じこもるタイプなので、仕事以外には家にいるのが好きです。人がたくさんいる場所にいくのは好きではないんです。
Q:よく行かれるレストランは?
A:
レストランよりも、地元の屋台料理を味わうのが好きですね。それでこそその土地の味が堪能できますから。
時間があれば金山に行きます。そこの古い街並みの近辺に行って金山王の肉まんを買ったり、市場で創業36年の老舗「阿郎の甜不辣(おでん料理)」に行ったりします。どちらもその日の作りたて、揚げたてで、昔ながらの味ですね。なかでもおススメが芋頭酥(タロイモのケーキ)です。これは6、7月だけでないと買えない季節限定品ですからね。
金山王の肉まんhttp://kswang.com.tw/about.html
Q:仕事が終わった後は?
A:仕事が終わったらいつも疲れています。家に帰ってシャワーを浴びたら、一番の娯楽は読書です。そのほかには音楽を聴いたり、調べものをしてスマホでフェイスブックを見たりします。娯楽というよりは、私がもっと追い求めているのは、生活に根ざした楽しみ、それを体験することだと言ったほうがいいでしょうね。「体験は暮らしに、感動は体験に夢中になって得られるもの」だと思うんです。
Q:作品をたくさん撮ってこられましたが、面白かったり、心に残ったりしたことは何かありますか?
A:一番面白いことは作品の撮影過程です。いつでも新たに挑むべきことが出てきますから。
どうして3Dを撮るのだと、多くの人から聞かれます。実は私にも分かりません(爆笑)。それはなにごとも学んでやってみて、やり終わってようやく何が起こるかが分かるからです。次の作品がどんなタイプで、どんな人に出会えるかは分からないものです。私には、李安と一緒に受賞するのか、それとも侯監督とタッグを組んでやっていくのか、分かりません。これこそが撮影の面白みなのであり、この仕事に夢中になれる一番の魅力なのです。
Q:もし監督をしていなかったとしたら、何をなさりたいですか?
A:講演者です。私は、経験を伝えるのはいいことだと思います。自分の経験を話にして伝えることで、人の力になれるのは素晴らしいことですからね。仮に私が今300あまりの場所で講演をしたとしても、私はそれでも手直しをして、練習を続けるでしょう。たとえ今、とてもスムーズに話せるようリズムが把握できたとしても、私はやはり絶えず練習を続け、毎日の新しい体験を講演内容に加えることでしょう。
Q:監督という方向性で歩んでいこうという若い人達には、曲監督は、どんな提案がおありですか?
A:世界的な流れから見て、映像・テレビ関連業界はいいですね。ただし、まず自分の能力、自分が映像の撮影というライフスタイルを受け入れられるかを見定めるべきですね。こうしたことはみなじっくり考慮すべきです。今なら携帯電話、カメラを手に撮影をすれば、誰でも監督になれる時代です。器材は簡単に手に入るようになったため、一から始めるには敷居が低くなりすぎています。基本的な法則や理論をどれもしっかり学べていないのが、一番の問題です。昔なら徒弟制で、器材運びを3年しなければ、カメラに触ることはできなかったものです。3年の期間で、画面の構図、照明など基本をたたき上げるのです。それこそ土台となる厚みなのです。どの業界でも専門性の厚みはそうそうたやすくでき上がるものではなく、少しずつの積み重ねなのです。
Q:最近読み終えた本、その本から悟った事やご感想は?
A:老子の『道德経』を最近もう一度読みました。以前読んだ時には内容を会得できただけですが、人生で修練を数多く積んでから立ち戻って読み返してみると、本に書かれたことがもっと身にしみて感じ取れました。分からない箇所にぶつかると、ネットでみなが記してくれた注釈を読みました。実はそれも興味深かったです。人の経験と問題点に切り込む視点、そして読み解き方が一人一人違っていたからです。
Q:台湾でもっとも面白い所、または魅力的な所は?
A:台湾は四方を海に囲まれた小さな島で、自然の生態系が豊かに育まれています。屏東・大武山には、「島給納エリア」があり、ルリマダラというチョウの大移動が見られます。ここは、メキシコのオオカバマダラの谷とともに、越冬する蝶が集まる谷として世界で一二の広さを争います。ここは土地は広くありませんが、それでもメキシコのオオカバマダラの谷と並ぶ存在なのです。台湾最南端に位置する恒春は、ちょうどその名の通り、「四季を問わず春の如し」の場所です。恒春には海の水がかもし出すロマンチックな雰囲気があり、それは魏德聖監督による映画『海角七号 君想う、国境の南』に合わせて知られるようになりました。古い町の歴史の味わい、そして恵まれた豊かな自然―そんな恒春はこの島・台湾で、日の光に一番近い場所にあります。そして細長い岬となって、赤道のほうを指し示しています。
台湾は面白い場所です。山に行きたければ山があり、海に行きたければ海があり、どんな景色も見られる場所なのですから!!!
Q:曲監督にはおススメの穴場スポットがおありですか?
A:陽明山ですね。台北の「奥の院」とも言える場所で、見て楽しめるスポットがいっぱいです。ちっちゃな場所ながらも多彩な景観がぎっしり詰まっています。
例えば擎天崗ですね。ここは大屯火山群にある溶岩が噴出して形成された溶岩階地であり、夢幻湖には鳥類の生態系が豊かに息づいています。もし時間に余裕があるなら、陽金公路沿いに北海岸日帰り旅行を楽しんでもいいでしょう。金山の古い街並みを散策し、野柳の女王頭(巨石)を眺め、それから亀吼漁港に行けば海の幸が満喫できます。この道を進んでいけば名物料理も楽しいスポットもあるのです。
野柳地質公園 http://www.ylgeopark.org.tw/content/index/index.aspx
陽明山国家公園 http://www.ymsnp.gov.tw/
Q:宿泊する時に一番期待するのは?
A:客室が清潔なことですね。もし緑の植物や大自然が目にできる窓があれば、最高の気分でしょうね!!
Q:台北旅店の傘下にある旅店に対する印象は?
A:台北旅店には、店舗ごとに異なるスタイルを保とうとの心配りを感じます。建物そのものにデザイン性があり、文化的な創意工夫がそこに組み込まれ、どちらもにも気配りを感じます。
印象的だったのは、新駅旅店(ホテル)台中駅店です。便利なロケーションで、台中駅の裏口にあります。正門を入ると、清潔で明るく、そしてポイントはスタッフに熱意が溢れていたことです。翌日は朝5時の仕事があったので、ホテルのスタッフが「朝ごはんをテイクアウト包装にしましょうか」とわざわざ尋ねてくれました。親しみを感じるサービスだと感じました。人と人とのやり取りで心が温まる―何ものにも代えられませんね。